サトラピさんのマンガ3冊ほど。

刺繍 / マルジャン・サトラピ 監訳:山岸智

イランの女性のぶっちゃけトーク漫画。
下ネタ全開の茶飲み話をいろんな世代が交わって親族の女同士でするって内容で、出てくるネタのほとんどがけっこーどぎつい。タイトル?処女膜再生手術のことだよいわせんな恥ずかしいw 話し手は貞操を重んじることが美徳とされる社会の女たち、それでも押し寄せるグローバリズムの自由の風、その狭間でどのような考えをもってどう生きていくか、っていうのがリアルに伝わってきてとても面白かった。といっても、作者の自伝的な作品を読んでみるかぎりでは作者は16歳でオーストリア留学するわフランス語ドイツ語英語いけるエリートだわ家庭もかなり進歩的だわで、これがイラン女性の平均的な姿と考えるのもまたそれはそれでずれているような気もするけれども。

ペルセポリス1,2 / マルジャン・サトラピ 訳:園田恵子

『刺繍』と同じ作者の作品。前半はカージャール朝の最後の皇帝をひいおじいさんに持ち、とても進歩的な家庭のもとに育った作者が見つめたイランの姿が描かれている。後半は留学してイスラム圏ではまず考えづらいほどのみだらでただれた人々の中で、いろいろなことを学んだり結婚を経験したりそのへんでのたれ死にそうになったり、の波瀾万丈な自伝的な内容がメイン。
資源ナショナリズムで一度は立ち上がった革命の炎も、結局は強国の圧力の前に屈してしまったイラン。「石油の上にペルシャがある限り争いは消えない」と冷静に語る人、死者も出るような激しいデモに自分の身を投じていく若者たち、反対に現体制のあり方を信じてまったく疑わない体制シンパのお隣さんや秩序維持の警官(=ひげ男)たち。対外戦争は加速していく。留学をすることで戦いを離れていった作者はアイデンティティたる祖国との繋がりを見失ってしまう。イランで自分に期待してくれる両親やおばあさんのことを思いつつも、目の前の大きな「自由」の前に飲まれてしまう作者が出会ったのは、自らが「戦争」を見いだすことのできる戦地帰りの男だった…って感じの本。イランの知的階級が見た歴史のダイナミズムが感じられる1巻に比べると、世界はつながっているとはいえ6000km離れた世界での半径100mの生活描写がメインになる2巻は作者の人柄が好きになれないと面白さとしては半減かなあ。
ちょっと前までは文化相対主義というか、文化はほかの文化からの優劣はつけられないんだって考え一辺倒だったけど、実際に自由が無い環境っていろいろやばいなぁと思わせる本だった。宗教的戒律に生きる社会にも、それをはみ出した人を受け入れる器量の大きさが必要なのでは…というのは日本に生まれた者の感覚に過ぎないんだろうか。